「母が導いた葬儀の世界」
母が私を葬儀の世界へ導いたのだと思っています。母は、働き盛りで亡くなった父の代わりに女手一つ、未だ身の立たない私と大学生だった妹を支えてくれました。既に銀行に就職し社会へ出ていた兄も激しく移り変る世の中に翻弄されるばかりであったと思います。日々、家族の為に懸命に働き、どんな時も明るく辛い表情を見せることなく過ごしていた母でしたので、私たちきょうだいは、母の身体を蝕む大きな病に気付く事がありませんでした。母は、がんを患っていました。告知はせずにいましたが黄疸の発症から本人も気づいていたと思います。癌が母の命の芽を刈り取っていくまで僅か半年。 母は、まだ53歳でした。それまでの私は、仕事上のお付合いなどで葬儀に参列することはありましたが何かを意識し意味を感じて参列することはありませんでした。大事な方を亡くされた家族の気持ちは、平凡に暮らす私には実感として無く正に「他人事」であったように思います。そんな暮らしの中、闘病の末に若くして亡くなった最愛の母親を看取り、悲しみと辛さの中にあって見送らなければならない現実を必死に受け止め兄と妹、そして私の三人のきょうだいで力を合わせ、葬儀を行った事が「葬儀の仕事」を意識したきっかけのように思います。母が元気な時には、きょうだいで力を合わせ何かを行う事など殆どなく無く、平凡で穏やかな日常がいつまでも続くものと思っていました。母の葬儀に接した時に葬儀担当の方が親身になってくださり、全て終えたのちに心から「ありがとう」と言えた自分にも驚きがありました。そして自分もこのような仕事に就きたと心から感じました。 今、私は生花部に籍をおいており、故人様への想いを差向ける供花や大切なご先祖様を偲ぶ仏花、墓花を中心にご準備をしています。ご覧になられる方に綺麗だと思って頂き大切な方を想っていただける様に今日もお花に向合います。