「花を咲かせ実をつける」
張り詰める緊張感の漂う空間。一筋に天へ向かい昇る香の煙。彩豊かな祭壇の光から微かに照らし出される、悲しみを称えた表情のご遺族様方のお顔。その視線は、全て僕に向けられています。僕は今、葬儀社の社員として尊い時間を紡ぐお手伝いを職業としております。幼い頃の僕は、祖父とするキャッチボールの時間が大好きでした。投げては返す白球を介して他愛のない話をしながら過ごす、その時間が野球の道へと僕を引き込んでいきました。小学校から中学、高校そして大学と僕の十代は、まさに野球漬けの毎日でした。厳しい練習の中、野球を通じて多くの友人と出会い、多くの経験をさせて頂きました。野球を通じて謙虚であること、努力をすること、他者を敬うこと、そして素直であり続けることを学びました。やがて社会へ巣立つ時を迎え、真剣に人生を悩み考えました。社会人野球のチームへ進み、自分に大きな影響を与え、自分の生きる指針を与えてくれた野球を続けることも考えました。懸命に考える中で小さな疑問が頭をよぎりました。どうしてこんなに野球を好きになったのだろうか?幼い日から思い起こすとそこには、必ず家族の支えがありました。葬儀社を営む祖父や社員をまとめる父、その父を影となり日向となり支える母の姿。昼も夜も問わず、大切な方を亡くされたご家族様の元へ駆けつけ、我が身のように尽くす姿が、心の中に浮かんでは大きくなり、いつまでも消えることがありませんでした。大好きな野球を通じて学んだ多くの事が、違和感なく僕の中に根付き、大きくなったのは、幼い頃より、大切な方を亡くされ途方に暮れるご家族様に、真摯に謙虚に故人様を敬い、御遺族様を尊重する父や祖父を見て育ったからだと気付きました。今はまだ、未熟ではありますが、いつの日か祖父や両親が僕の中に根付かせてくれ、野球が育ててくれた「心」を大切に大きな花に実をつけ、多くの人へお返しをしたいと思っています。